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ガイガーカウンター(放射線測定器)を上手く使うための3つのポイント

ガイガーカウンター(放射線測定器)を上手く使うために,覚えておいて欲しいポイントを3つに絞ってまとめました.

測定器は,使い方によっては全く当てにならない数値を表示してしまうことがあります.
覚えておいて欲しい3つのポイントを簡単にまとめました.

ポイント1:測定器を汚さない

測定器に,放射性物質が付いてしまうと,それ以降ずっと高い放射線量を表示してしまい,正しい判断ができなくなります.
特にマイカ窓を利用したガイガーカウンターでは,一度汚れてしまうと綺麗にすることが困難です.
(マイカ窓は触ると壊れてしまいます)

特に地面の上,土の上,草の上に測定器を直接置かないようにしましょう.
測定器をビニールやジップロックに入れて測定すると,測定器を汚す心配がありません.

ポイント2:空間線量率(μSv/h)はγ線で計る

γ線のみを測定できる測定器の場合は,そのまま測定すればOKです.

β線やα線も測定できる機種の場合,空間線量率(μSv/h)を計るときは,γ線のみに切り替えてください
一部の機種を除き,β線も含めて測定すると,実際の空間線量よりも数十倍も大きな数値を表示することがあります.

切り替え機能がないβ線を検出する機種をお使いの場合は,地上1mで測定することでβ線の影響を大幅に低減させることができ, 正しい数値に近づけることができます.

ポイント3:測定値が正確で無いことを知る

測定器が出す数値は数倍くらいの誤差があってもおかしくない,誤動作等で正しくない値を出すこともある,ということを知っておいてください

ガイガーカウンターの仕組み上,正確な空間線量率(μSv/h)は測定できません.
正確な数値が測定できるのは,エネルギー補償付きとの表記がある機種だけになります.

測定器が違えば結果に違いが出てきますので,以下の点に注意しましょう.


数値がふらつく機種の場合は, 複数回測定して放射線測定器(ガイガーカウンター)の測定値の平均計算ツールで平均値を計算すると, より正しい値を把握しやすくなります.


また,測定器が電波等のノイズで誤動作する場合や,医療行為において放射性物質を使った検査・治療をした方が近くにいて高線量を表示することもあります.
高線量の数値が出ても,落ち着いて原因を確認するようにしましょう.

場所を移動してみたり,他の放射線測定器,携帯電話,電気機器(空気清浄機・電車のモータ等)などが近くにないか確認してみましょう.
近くに人がいる場合は,人から離れてみましょう.


測定を行うとき,方向にも注意する必要があります.
測定器は,放射線をどの向きで測るかによって表示値が変わってきます.
特にGM管の場合は,方向によって表示値が数倍異なる事もありますので, 測定器の正面方向(校正時に線源を置いた方向)に測定対象が来るようにして測る必要があります.
参考:測定器の方向依存性(シンチ・GM)
(上記資料は非破壊検査株式会社の藪下延樹様よりご提供頂きました)

各ポイントの詳しい説明

ポイント1の詳しい説明

測定器に放射性物質が付着してしまうと,それ以降,その付着した放射性物質によって表示される値が増えてしまいます.

シンチレーション式の測定器で,防水性能がある機種の場合は,汚れてしまった場合は水拭きするなどで対処が可能です.

ガイガーカウンターの場合は,防水性能を持ったものは少ないので,最初から注意する必要があります.
測定器の内部に砂埃として入ってしまうと掃除が困難な機種が多いです.
また,マイカ窓を使った機種は特に扱いに注意が必要です.触ると壊れてしまうため,一度付いたら取り除くのは困難です.

高価な測定器ですので,ジップロック等に入れて測定することをお勧めします.

ポイント2の詳しい説明

空間線量率(μSv/h)をβ+γ線や,α+β+γ線の測定モードで計ると,異常に多きな数値を示す機種が多いです.
一部には,モード切替を認識して表示を補正してくれるものもありますが,そうでは無い機種ではγ線のみに切り替えが必要です.

測定器によっては,オプションを併用しないとγ線のみでの測定ができない場合もあります.

β線を関知する測定器なのに切り替え機能が無い場合や,β線遮蔽用のオプションがない場合は,地上1mの高さで測定するとβ線の影響を低減できます.
多くのβ線は空気中を1m程度しか進めず,減衰してしまうからです.
参考:β線の飛程の計算ツール

なぜβ線も一緒に計ると異常な値になるかは,ガイガーカウンターでのβ線測定時の誤った表示について でその理由を説明しているので,そちらをご覧ください.

主要な機種での状況は以下の通りです.

機種名 注意事項
Inspector+
Digilert 100
Radalert 100
Radiation Monitor (DRM-BTD)
標準ではγ線のみの測定ができず,正しい空間線量率は測定できません.
オプションのワイプテストプレートが必要です.
RadEye B20 オプションのγエネルギーフィルタを装着する必要あり.
GAMMA-SCOUT γ線のみの測定に切り替える必要有り.
スイッチで切り替え可能.
RADEX RD1503
RADEX RD1706
β線も若干量検出するような作りになっています.
異常に高い数値はしましませんが,空間線量としては高く出てしまうので, Sv/hを確認するときは地上1mで測定するのが良いと思います.
ECOTEST TERRA γ線のみで測定する必要有り.
裏蓋を付けて測定します.
Radiation Scanner Model 900 γ線のみで測定する必要有り.
スイッチで切り替え可能.
SOEKS-01/01M
β線も検出する作りになっています.
Sv/hを確認するときは地上1mで測定するのが良いと思います.
Polimaster PM1208M
Polimaster PM1610
γ線のみのGM管なので問題無し.
HORIBA PA-1000 Radi
クリアパルス Mr.Gamma A2700
RadEye PRD
Polimaster PM1703M
RAE Systems DoseRAE2
RAE Systems GammaRAE II R
TechnoAP TA-100
シンチレーション式でβ線は測定されないため問題無し.

ポイント3の詳しい説明(正確な数値について)

エネルギー補償付きと記載がある機種では,おおむね正しい値が出ます.
それでも誤差は数十%になることがありますので,最大と最小で1.5倍くらいの差はでることがあります.

エネルギー補償が無い機種では,実際の空間線量率とはかなりずれた値になる可能性があります.
エネルギー補償がどういう意味なのか,なぜそれがないと数値がずれるのかは, エネルギー補償機能について に詳しい説明があるので,そちらを参考にして下さい.

エネルギー補償が無い場合は,特定の放射性物質を測定した場合のみ正しくなるように調整(校正)されています.
多くの機種はセシウム137で校正されていますが,コバルト60で校正されているものもあります.

校正に使った放射性物質ではないものを測定すると,測定器が放射線を検出しやすくなったり,しにくくなったりします.
検出のしやすさが変わると数値がその分ずれてしまい,正しい値から遠ざかってしまいます.

ですので,単純に他の人の測定結果と比較してしまうと,判断を誤る可能性があります.

同じ測定器同士で比較する場合も,測定方法(地上何センチで計っているか等)が違えば, 結果もずれてきますので,測定条件をきちんと合わせないと正しい比較にならない可能性があります.

なるべく同じような条件で自分で測定し,自分の測定値同士で比較するのが安全です.

正確に測定するコツが, 簡易放射線量測定器でできるだけ良い測定を行うコツ に良くまとまっていますので,こちらを読むことをお勧めします.


測定値には,エネルギー補償の問題とは別に,ランダムに飛んでくる放射線を測定するという特性上,表示される線量率にばらつきがあります.
測定器によっては,このばらつき具合を統計誤差として%などで表示するものもあります.

誤差の表示が出ない機種でも,測定器の感度(○cpm/μSv/hの数値)がわかれば,以下のページでばらつき具合をシミュレーションできます.
参考:放射線測定器(ガイガーカウンター)の誤差シミュレーション

線量が一定の場合,表示値を計算するのに放射線をカウントする時間を長くとるほど,誤差の数値は小さくなっていきます.(複数回測定した時のばらつきが小さくなります)
Polimasterの多くの機種では,線量率が一定の場合は,長い時間をかけて測定した結果を元に線量率を表示します.

例えばPolimaster PM1610のマニュアルでは,誤差15%以下になってから数値を読んでくださいとありますので, そのくらいが数値を読み取る目安になります.
誤差15%以下というと,一般的なガイガーカウンターでは,0.1μSv/hなら5分~20分くらいかけて測定するイメージになります.

Polimaster以外の多くの機種は,一定の時間の測定結果を元に線量率を表示します.
比較的高感度の HORIBA PA-1000 Radi や Mr.Gamma A2700 では15秒程度で誤差15%以下になりますが, 測定器が過去1分間の平均を表示しますので,表示される値は0.1μSv/h時で7%程度の誤差の物になります.
機種によっては,測定時間を設定で調整出来るものや,その時点での線量率に応じて自動的に変動させるものもあります.

誤差15%で数値を読み取る場合,例えば100回測定すると以下のグラフのように数値がばらつきます.



このグラフのばらつきを見て,大きすぎだと感じる場合は,以下のような方法で改善することができます.

上記シミュレーションは以下のページで行うことができます.
参考:放射線測定器(ガイガーカウンター)の一定誤差での測定値のぶれシミュレーション

それぞれの誤差になるまでに何分くらいまてば良いかもシミュレーション結果に出ますので,測定器を買うときにも参考にできると思います.

ポイント3の詳しい説明(誤動作・医療放射線について)

電波などによるノイズの誤動作は多くの測定器で起こります.
ノイズの耐性は機種により大きく違うようですが,特に半導体式やシンチレーション式では弱いことが多いようです.

携帯電話の電波や,プラズマクラスターなどの空気清浄機,電車のモーターなどで誤動作することが有り,その際にとても高い数値が表示されることがあります.
(携帯電話は,電波状況によって出力する電波の強さが変わるため,普段は誤動作しなくても,あるとき誤動作することもあります)

放射線測定器も,内部で高圧の電気を扱っているものがあり,放射線測定器によって他の放射線測定器が誤動作することもあります.

参考:プラズマクラスターでTA100(半導体式)が誤動作
参考:蛍光灯で PA-1000 Radi(シンチレーション式)が誤動作
参考:携帯電話(iPhone4S)でMr.Gamma(シンチレーション式)が誤動作
参考:ガイガーカウンター RD1503 でエアカウンター(半導体式)が誤動作
参考:万引き防止用シール読み取り器でMr.Gamma(シンチレーション式)が誤動作
参考:トロンボーンの音でTC100S(シンチレーション式)が誤動作


また,放射性物質を使った検査・治療を行った場合,その方の体内に放射性物質がしばらく残り,10μSv/h以上くらいの高い線量率になることがあります.
こちらは誤動作ではなく実際に高い線量ですので,被曝を少しでも避けたいと考えるのであれば,検査・治療を受けた方から離れる必要があります.

患者から1m離れた状態で,30μSv/hであれば帰宅して良いことになっているので,電車等で密着すれば100μSv/h以上を計測する可能性もあります.
その際,検査・治療を受けている方は,放射性物質を使った治療をしている(自分がある程度の放射線を出している)という認識がない可能性も高いので, トラブル等にならないようにご注意ください.

わたしは東京都内で生活していますが,数ヶ月に1回くらいの頻度で,検査・治療をされていると思われる方に遭遇しています.

参考:放射線治療・検査をした人の発する放射線・2回目 (2011/12/26)