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エネルギー補償機能について

放射線測定器(ガイガーカウンター)には,エネルギー補償ができるものと,できないものがあります.

エネルギー補償できる機種の方が,より正確にμSv/hを計算できますが, エネルギー補償が無いとどうなるのか,説明します.

放射線エネルギーを検出して補正する場合

シンチレーション式の放射線測定器では,エネルギーの大きさを検出することができます.
これを使って,正しいSv/hを計算します.

エネルギー補償の目的は2つあります.
それぞれ順に説明します.

検出器のエネルギー特性の補正

放射線の検出器には,GM管(ガイガーミュラー計数管)方式や,シンチレーション方式などがありますが, どちらも放射線のエネルギーの高さに応じて,検出できる率が変わってきます.

以下の図にあるように,エネルギーに応じて検出のしやすさが変わります.


緊急被曝医療研修のホームページ:空間線量率の測定より引用)

例えば,0.33MeVで30%,0.66MeVで20%,1MeVで10%検出できる測定器を使っているとすると,次の表のようにカウントされます.
(エネルギーが大きいほど検出器を通り抜けてしまいやすいために検出しにくくなるため,放射線をカウントしにくくなります.)

説明を簡単にするために放射線の数は適当ですし,数値の細かいところは概算です. エネルギー補償の有無の違いを捉えるためのイメージだと考えてください.

0.66MeV(Cs-137)の放射線 0.33MeVの放射線 1MeVの放射線

本当の放射線量
γ線 1μSv/h : 0.66MeV×1000個
合計線量率 1μSv/h
本当の放射線量
γ線 0.5μSv/h : 0.33MeV×1000個
合計線量率 0.5μSv/h
本当の放射線量
γ線 1.5μSv/h : 1MeV×1000個
合計線量率 1.5μSv/h
エネルギー補償無しの測定器
γ線 200個カウント(計数率20%)
画面表示 0.005μSv/h×200=1μSv/h
エネルギー補償無しの測定器
γ線 300個カウント(計数率30%)
画面表示 0.005μSv/h×300=1.5μSv/h
※0.5MeVと同じ係数でそのままかけ算
→過大評価(実際より高く表示)
エネルギー補償無しの測定器
γ線 100個カウント(計数率10%)
画面表示 0.005μSv/h×100=0.5μSv/h
※0.5MeVと同じ係数でそのままかけ算
→過小評価(実際より低く表示)
エネルギー補償有りの測定器
γ線 200個カウント(計数率20%)
画面表示 0.005μSv/h×200=1μSv/h
エネルギー補償有りの測定器
γ線 300個カウント(計数率30%)
画面表示 0.00167μSv/h×300=0.5μSv/h
※0.33MeV用の係数でかけ算
エネルギー補償有りの測定器
γ線 100個カウント(計数率10%)
画面表示 0.01μSv/h×100=1μSv/h
※1MeV用の係数でかけ算

何もせずに計測すると,上記のエネルギー補償無しのような計算になります.

上の例では,エネルギー補償無しの測定器は,0.66MeVで校正されています.
(通常,セシウム137の0.66MeVで校正されます)

校正したエネルギーと同じ放射線を測った場合,線量率が実際の線量と一致します.

しかし,エネルギーが変わると,1回カウントしたときの線量率も違ってきますし, 検出器が放射線を捉えられる率(計数率)も変わってきます.
上記の例では,0.33MeVでは計数率が30%になったため,本来は0.5μSv/hであるところが,1.5μSv/hの過大評価した表示になってしまっています.
一方,1MeVでは計数率が10%しかないため,本来1.5μSv/hであるところが,0.5μSv/hの過小評価した表示になっています.

一般的に,自然の放射線は低いエネルギーであることが多いため,数値は高めにでることが多いと思います.
参考:東京都品川区のバックグラウンドスペクトル


エネルギー補償有りの検出器では,こういった数値のズレを改善するために,検出器で放射線のエネルギーを検出し, そのエネルギーの高さに応じて線量を計算する差異の係数を変更します.
そうすることで,本当の放射線量を計算することができます.

エネルギー補償有りの測定器では,エネルギーによって,0.33MeV用の係数や,1MeV用の係数を使って計算することで, 正しい線量率を計算できます.

ただし,エネルギー補償有りといっても,補償の程度はまちまちです.
例えば,エネルギーを4つの領域に区切って係数が4種類しか無いものもあれば,係数が数百種類用意されているものもあります.
また,エネルギーの高さを正確に検出することも難しいため,どうしてもズレは出てきてしまいます.
エネルギー補償ありといっても完璧ではないため,機種により表示値には差が出てしまいます.


エネルギー特性の図については,測定器の説明書に付属していることがあります. 高価な機種では大抵記載があると思います.

その図を確認し,先ほど記載したグラフの「1cm線量当量」の点線より上にあれば過大評価(実際より大きい数値を表示), 下にあれば過小評価(実際より小さい数値を表示)となります.


エネルギーに応じた線量率の補正

正確なエネルギー補償を行う場合は,エネルギーに応じた線量率の補正も行います.

次の図の「1cm線量当量対応型」の線が,エネルギーに応じた正しい線量率です.
放射線測定器で測るSv/hは,1cm線量当量率といって,皮膚1cm深さでの被曝量なので, エネルギーの高さに応じてそのまま大きくなるのでは無く,グラフのような曲線になります.


緊急被曝医療研修のホームページ:空間線量率の測定より引用)

曲線の左側が大きく落ち込んでいますが,多くの放射線測定器ではこの落ち込んでいる範囲は検出できません.
だいたい50keVあたりですので,グラフの左1/3くらいの領域は検出できない範囲です.
(GM計数管式やシンチレーション式の線が大きく落ち込み,左側まで届いていないのは検出できなくなるためです)

そのように考えると,こちらの補正を行わなくても,検出できる範囲ではそこまで大きなズレは生じません.
そのため,機種によってはエネルギーに応じた線量率の補正まではしていないようです.

物理的に補正する場合

シンチレーション式ではエネルギーを検出できますが,GM管(ガイガーミュラー計数管)は放射線の回数しか検出できません.
そのため,上に書いたようにエネルギーの大きさを測定する方法は使えません.

そこで,エネルギーに応じた放射線の計数率が「1cm線量当量対応型」の点線と同じ形になるように, 物理的にフィルターを付けて形を合わせてしまう方法を使います.

例えば,Inspector+のメーカーのMonitor4のページには,
Monitor4 Specifications
にエネルギー特性の図が掲載されていますが,
緊急被曝医療研修のホームページ:空間線量率の測定
の点線と似たような形になっていることがわかります.
ただ,こちらの機種の場合はだいぶズレが大きそうです.

もう1機種,RadEye G-10を見ると,こちらもカタログにエネルギー特性の図があります.
RadEye G-10 日本語カタログ
かなり綺麗な形になっていることがわかります.

エネルギー補償有りといっても,その性能には違いがありますから, 測定器を購入する際には補正能力の違いも確認すると良いと思います.

なお,上記2機種はどちらもGM管式ですが,シンチレーション式でも,1個1個のエネルギーを検出するのはコストがかかるため, 物理的なフィルタで調整している機種もあるようです.