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ガイガーカウンターでのβ線測定時の誤った表示について

一部の機種を除き,ガイガーカウンターでβ線を含めて測定すると正しい値が出ません.
(γ線専用の検出器と,β線等を含めて計測する検出器を2つ搭載しているような機種(RADEX RD1008やPolimaster PM1405)は例外です.)

○μSv/h の数値を見る場合は,α・β線を遮蔽する状態で測定する必要があります. アルミやプラスチックのキャップ・蓋をする形で遮蔽する機種が多いようです.

ガイガーカウンターの検出器に,γ線の他にβ線も入るようにすれば, γ線+β線の両方が測定できて,人が受ける放射線量をより正確に測れると思ってしまう方もいると思います.

しかし,ガイガーカウンターの仕組み上,実際にそれをやってしまうと,実際のβ線+γ線の線量より, 十倍以上高い値が出てしまうことがあります. この数値をそのまま信じてしまうと,放射線のリスクの判断を誤ってしまいます.
(機種によってどのくらい極端に増えるかは異なり,10倍以上になる場合もあれば,2倍程度になる場合もあります.)

なお,汚染箇所を調べるためにα・β線を含めて測定することもあります.その場合は数値の大小で汚染度合いを判断します.
これも正しい使い方ですが,そのとき表示される○Sv/hを外部被曝量の判断に使うのは間違いです.

以下では説明を簡単にするために放射線の数は適当ですし,数値の細かいところは概算です. 測定が誤りになる理由を捉えるためのイメージだと考えてください.

放射線源 近接距離での測定時 1mくらいでの測定時

こちら側に放射性物質があるとします
本当の放射線量
β線 1000個/分
γ線 1000個/分=1μSv/h
合計の実効線量率 1μSv/h
※β線は皮膚1cmの深さに到達しないのでカウントしない
本当の放射線量
β線 空気中で減衰してなし
γ線 700個/分=0.7μSv/h
合計の実効線量率 0.7μSv/h
ガイガーカウンター(γ線のみ)
β線 カウントしない
γ線 1分で10個カウント(計数率1%)
画面表示 0.1μSv/h×10=1μSv/h
ガイガーカウンター(γ線のみ)
β線 カウントしない
γ線 1分で7個カウント(計数率1%)
画面表示 0.1μSv/h×7=0.7μSv/h
ガイガーカウンター(β+γ線)
β線 1分で200個カウント(計数率20%)
γ線 1分で10個カウント(計数率1%)
画面表示 0.1μSv/h×210=21μSv/h
ガイガーカウンター(β+γ線)
β線 カウントできない(β線が1m飛ばないため)
γ線 1分で7個カウント(計数率1%)
画面表示 0.1μSv/h×7=0.7μSv/h
シンチレーション式
β線 カウントできない
γ線 1分で200個カウント(計数率20%)
画面表示 0.005μSv/h×200=1μSv/h
シンチレーション式
β線 カウントできない
γ線 1分で140個カウント(計数率20%)
画面表示 0.005μSv/h×140=0.7μSv/h


上記の例では,放射線源から,同じエネルギーのβ線とγ線が1分間で1000個ずつでているものとします. ヨウ素やセシウムは,どちらも1回崩壊するごとにβ線とγ線を1つずつだします. ですので,だいたいこの仮定と似たような状況になります.

β+γ線の測定値が異常になる理由

ガイガーカウンターや,エネルギー補償無しのシンチレーション式の場合は,回数をカウントすることしかできません.
そこで,予めテスト用の放射線源を使って,何回カウントできたらこのくらいのμSv/h,というのを測定しておきます.(校正)

ガイガーカウンターは感度が低いので,1分間に1000個の放射線が測定機に当たっても,そのうち10個くらいしか検出できません.
(測定機が検出できる割合を計数率といいます)

1分間に1000個の放射線が通り過ぎたときに1μSv/hですが,実際に検出できるのは10個なので,1個検出につき0.1μSv/hと計算します.

エネルギー補償無しのシンチレーション式の場合は感度が高いので,計数率が高く,1000個の放射線のうち,200個を検出できます. 200個で1μSv/hになるので,1個あたりは0.005μSv/hで計算します.

これが正しい使い方での測定値になります.

では,ガイガーカウンターでβ+γ線で測定するとどうなるか見てみます.
ガイガーカウンターの検出器は,γ線よりβ線をよく捉えます. γ線は1000個中10個しか捉えられなくても,β線は1000個中200個を捉えることができます.
γ線の計算方法と同じように計算すると,0.1μSv/h×(200+10)=21μSv/hと,本来の21倍の数値になってしまいます.

このような計算になるため,β+γ線で測定すると異常な値になってしまうのです.
ネット上でホットスポットの動画として,非常に高いμSv/hを測定しているものがありますが, そういったものは上記に書いたような計算によって,異常な値を示しているだけかもしれません.

実際に,β線も検出できる測定器で,γ線測定モードのままβ線遮蔽フィルタを開けてβ線も入れてみた動画を撮影しました.
参考:ガイガーカウンターにβ線を入れた場合の異常数値

途中でフィルタを開けていますが,60倍くらいの高い数値が出ています.

γ線のみのMr.Gammaと,α+β+γ線を検出するInspector(α+β線を遮蔽するワイプテストプレート無し)で同じものを測定した動画もあります.
参考:Mr.Gamma A2700(ミスターガンマ) vs Inspector Alert 動作比較(屋内)
参考:アルミ版でα・β遮蔽後のInspector
この動画では,Inspectorの方が40倍くらいの数値を出してしまっていることが確認できます.
また,アルミ板でα・β線を遮蔽すると数値のずれが大幅に改善することも確認できます.

β線の測定はどうすればよいか

上記で説明したように,ガイガーカウンターではβ線のμSv/hを計ることができません.

β線を計る場合は,単位が変わっている機種が多いと思います. 大抵は,放射線のカウント回数のみで表示しています.

放射線の強さ=Sv/h=α線+β線+γ線+中性子線が本当の強さ,と考えている方も多いと思います.
しかし,一般的な放射線測定器で測っている放射線量は,1cm線量当量といって皮膚から1cm深いところでの被曝線量になります.
参考:緊急被曝医療研修のホームページ:1cm線量当量(1cm (depth) dose equivalent)

α線・β線は透過力が低く,皮膚の表面で止まってしまいますので,1cm線量当量率には影響をしません. ですので,1cm線量当量のSv/hの計算にいれることがおかしいことになります.

皮膚は放射線に対する感受性が低い(放射線に強い)ので,α線・β線の影響は計る意味があまりないため,1cm線量当量での測定が基本となっているようです.
(放射性物質を取り込んだときの内部被曝は別です.あくまで空間から受ける外部被曝での考え方です)

皮膚への影響については,別途70μm線量当量(皮膚の等価線量)という単位で測定をします.
こちらの場合は,β線も含めて測定を行います.
参考:モニタリングサービス取扱説明書:個人線量の求め方 - Part1

ですので,β線が無いからということで,(1cm線量当量の)Sv/hが本当の数値より低くなることはありません.

β線を一緒に計るときにSv/h表示の機種もありますが,これは数値の大小で表面汚染を判断したりするために使うもので, 数値自体に意味は無い(数値自体は全く不正確)ということを覚えておくと判断を誤りません.

放射線の影響を正確に求めるには,1cm線量当量・70μm線量当量を体の場所別に求めるようです. 70μm線量当量は,β線の影響も含みますので,このときはβ線も測定します.
ガラスバッジを使った測定方法について以下に記載があります.
参考:モニタリングサービス取扱説明書:個人線量の求め方 - Part3

また,放射線測定器でも,1cm線量当量と70μm線量当量を両方測定できるものがあります.
β線を含めた放射線量を測定したい場合は,こういった機種を選ぶ必要があります.
機種例:EPD Mk2【電子式個人線量計】

α線やβ線を含めて測る場合

放射線測定器ではγ線のみで測定しましょう,というと,α線やβ線の内部被曝が危険なので測らないといけない, というような意見を聞きます.

一般的な放射線測定器で○μSv/h の数値として測れるのは,外部被曝の放射線量だけです.
α線・β線も測定した方がいいのですが,その量を正しく測るためには別の測定器が必要になります.

α線・β線を検出できる測定器は,γ線のみで放射線量の数値(μSv/h)を見るほかに, α線やβ線も含めて測定し,数値の大小を見て汚染箇所を調べる目的にも利用できます.
α・β線はγ線と違い遠くまで届かないため,この辺が汚れている,という調査をするのに適しています.

その場合は,表示された数値の大小で汚染されている・されていないを判断して使います. この使い方も正しい使い方ですが,そのときに表示されたμSv/hの数値自体は被曝リスクを判断するのには利用できない数値です.
(○mSvで発がんリスク○%といった影響も,γ線のみで計算された値です.同じ方法で測らないと比較ができません.)

α線・β線は内部被曝においてはγ線より大きな影響を与えます.ですので正しい方法で測定することも大事です.

内部被曝は以下のツールでリスクを計算できます.
食品による年齢別の内部被曝ベクレル(Bq)シーベルト(Sv)換算ツール
こちらのツールを見てもわかるとおり,内部被曝のリスクを評価するには,どんな放射性物質がどのくらいあるかを知る必要があります.

適当に同じ数値を入れて試算するとわかりますが,放射性物質によって影響が大きく違ってきます.
同じβ線を出す放射性物質でも10倍の差がありますし,α線を出すプルトニウムは更に桁違いの影響があります.
放射性物質が体内のどこに溜まるのか,どのくらい溜まりやすいのか,などが違うため,内部被曝においては放射性物質が何であるかが重要になります.

内部被曝のリスクを数値で判断するには,どんな放射性物質がどのくらいあるかを知る必要があります.
これは核種分析機能のある高価な放射線測定器が必要になりますが,調査機関に依頼すると数万円くらいで測定できます.
食品や砂場の土などを正しく測定したい場合は,そのような方法で測ることができます.


上記に書いたように,内部被曝を判断するためには放射性物質毎の量を知る必要があります.

一般の測定器でわかるのは,全てあわせて,量が多いか少ないかしか判断できません.
α線・β線を含めて測定する場合は,量が多いか少ないかを判断していることになります.
測定器にcpm表示モードがある場合は,そちらを使うようにすると誤解を招きません.
他の方に伝える場合は,

のように,相対的な数値で伝えるか,機器のcpm数表示を利用して伝えるのが適切だと思います.
Sv/hで伝えてしまうと,情報を受け取った側が,その数値が外部被曝の線量の数値と勘違いしてしまう可能性が高くなります.

実際に線量の高い地域に住んでいる方にとっては,不必要に危険と言われることも,精神的な負担になると思いますので, 測定器の測定結果を公表される方は配慮頂けると嬉しく思います.