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放射線測定器 テクノAP TS100B-15 レビュー

@drnamichan さんより,TechnoAP TS100B-15 をお借りすることができました.
TS100B-15 は TS-100 を取り外すこともできるため,TS-100 部分だけ貸して頂きました.(さすがに鉛容器は大変重くて持ち運べませんので)
ありがとうございます.

お借りした TS100B-15の(TS-100についての)使用感などをまとめてみました.

食品測定器としてのレビュー(2012/11/06追記)

その後,食品測定器として使えるよう,鉛遮蔽容器も貸して頂きました.
食品用測定器としてのレビューは,食品用放射線測定器 テクノAP TS100B-15 レビュー にまとめてありますので, あわせて参考にしてください.

テクノAP TS100B-15 について

TS100B-15 は LaBr3 検出器を使用した放射線測定器です.

特徴としては,

エネルギー分解能が高いLaBr3検出機を搭載
エネルギー分解能が3%と,NaIシンチレータなどと比べて大幅に高くなっています.
Cs134/137のエネルギーもはっきり分別できます.
25000cpm/μSv/hの高感度
感度が高いため,スペクトルも短時間で確認することができます.
また,汚染場所を探すような目的でも活躍すると思います.
スペクトル表示・核種分析
スペクトル表示と,核種分析機能があります.
対応している核種は全19種類+対消滅エネルギーです.
マニュアルには以下の核種が分析可能と記載されています.
I-131,Cs-134,Cs-137,K-40,Co-57,Ce-139,Cr-51,Sr-85,Mn-54,Y-88,Co-60,Am-241,Xe-133,Tc-99m,Te-132,Pb-212,an.(対消滅511keV),Tl-208,Pb-214,Bi-214
ただ,巻末の仕様には「Tl-208,Pb-214,Bi-214」の3核種の記載が無く,この3つが実際に検出可能なのかはわかりませんでした.
食品測定
食品の測定が可能です.
TS100B-15 ベクレルモニターの仕様では,マリネリ容器700mlを使い,検出限界2.8Bq/kg(10時間測定)の測定ができるようです.
10分測定で低量下限値30Bq/kg,15分測定で低量下限値24Bq/kgです.
広エネルギーレンジ
0.001μSv/h~10mSv/hとかなり広い範囲を測定可能です.
エネルギー補償有り
エネルギー補償された線量率を確認できます.
microSDカードへのデータ保存
線量率を1秒毎に保存したり,スペクトルデータを保存できます.
1秒毎の保存では,時定数1秒,3秒,10秒,30秒の他,ユーザが設定した任意の時定数(1~999秒)の5種類の線量率が同時に記録されます.
高感度であることもあって,移動しながら線量率マップを作成するのにも適した機種です.
(付属ソフトウェアにマップへの反映機能はありませんので,そこは自前で用意する必要があります)
初期のバージョンは,本体でベクレル測定もできましたが,現在は解析精度が向上したPC用ソフトでのみ,ベクレル測定が出来るようです.
TS-100部分を取り外しての利用が可能
TS-100部分を鉛容器から取り外して,スペクトルサーベイメータとして使うことができます.
(取り外し可能なのは,TS-100B-15・TN100B-15で,TS150B・TS100Bは取り外し不可能です)
本レビューはTS-100部分のみに関してのレビューになります.

参考:TS100B-15カタログ
参考:TS-100カタログ

テクノAPが出しているベクレルモニターには,取り外し可能なものと不可能なものがあり,TS150B・TS100B は取り外し不可,TS100B-15・TN100B-15 は取り外し可能になっています.
TS100B-15・TN100B-15 は,TS100・TN100 に TSB-15 の放射能測定キットを追加した物になっています.

内容物

お借りしたものは次の写真のようなものです.

専用のケースの中にしまえるようになっています.
また,内蔵充電電池で動作するので,ACアダプターが別途付いてきます.

本体・検出器とも結構な大きさがあります.
検出器は少し重たい感じがしますが,本体は軽めと感じました.

microSD

TS100 は microSD を利用して,線量率・スペクトルを記録できます.
microSD は本体上部のカバーの中にスロットが有り,ドライバーを使ってねじを1つ外してから, もう1つのねじを緩めて出し入れします.

ドライバーが必要なので少々出し入れは面倒です.

SDカードの中味は次のような形で記録されます.

ファイル名にデータの種類と,記録時刻が入ります.
Windowsから見ると,タイムスタンプはおかしな日付になっていました.

測定の様子

TS-100 の測定中の様子を撮影しました.

電源投入と線量率・スペクトル表示の様子

電源投入後,線量率とスペクトル表示の画面に切り替えた様子です.

放射線の検出音は,50回検出するたびに1回ピッと音が鳴ります.
比較的安価な機種では,1回の検出毎に音が鳴りますが,50回につき1回になっているため, 放射線のランダムさはあまり感じられず,音の間隔が安定しています.
このため,線量率の変化がとてもわかりやすくなっています.

線量率の時定数は,本来の時定数ですので,時定数30秒の場合,30秒経てば最近30秒の結果が出るという形ではありません.
30秒毎には6割くらい,60秒後には9割弱,90秒後に95%くらいまで近づくような形になるので, 時定数30秒にしたら,数値を読み取るのはその3倍の90秒待ってからにするのが良いかと思います.

最近のデジタル式のものでは,移動平均になっていて,その場合は移動平均の計算時間と同じ時間待てば良いのですが, この機種は本来の時定数での計算になっています.

動画で線源を近づけたときも,時定数10秒の緑の線が,最初は急に,そしてだんだん緩やかに高い数値に移動していく様子が見られると思います.
時定数で計算すると,変化した直後は本来の値に急速に近づいていきますが,だんだん近づき方が緩やかになっていきます.

動画の2:45頃から,スペクトルの測定を行っています.
Cs-137のピークが綺麗に見えています.

ピークサーチは1分毎に自動的に行われますが,動画ではボタンを押してすぐにサーチさせています.
高感度ですので,0.2μSv/hくらいの線量率であれば,60秒も待たずに同定できるようです.

線源を近づけたときの様子

線源を近づけたときの様子です.
前半はCs-137線源,後半は更に複数の線源を近づけています.

グラフ表示されますので,線量の変化が非常によくわかります.

また,動画の1:50頃では,時定数による線量率の変化の具合がよくわかります.

メニューと画面

画面は主に次の4種類で,MENUボタン長押しで切り替えます.

線量率測定,スペクトル測定,ベクレル測定,リモートベクレル測定となっています.
ベクレル測定モードは初期の製品にのみあり,現在はベクレル測定はPC用ソフトウェア側から行うようです.(解析精度向上のため)
1画面ずつ紹介します.

線量率測定

線量率の測定モードです.

時定数を選ぶと,左上にその時定数での線量率が大きく表示されます.

グラフには,全ての時定数での線量率が同時に表示されます.
(設定で選択した物だけの表示にすることもできます.)
グラフは細かさを選択でき,40・20・10・5sec/div で切り替えられます.
以下の4枚の画面写真は,グラフの細かさを変化させた様子です.

時定数のUSEはユーザ設定で,任意の時定数を設定できます.
この画面写真では90秒に設定しています.

画面右上には,積算線量と,cpsも同時に表示されます.
アラートを設定している場合は,線量率アラートと積算線量アラートの設定値が画面下に表示されます.

スペクトル測定

スペクトル測定モードです.

スペクトル測定モードにすると,左のような画面になります.
左上には,cps,測定時間,リニア・ログの切り替えが表示され, 右上には検出した核種が表示されます.

核種を検出すると,右のようにスペクトルのピークの上に小さな三角形が表示され, その情報が右上に黄色い文字で表示されます.
複数検出した場合は,カーソルで選ぶ事でそれぞれのピークを確認できます.

また,SHIFTキーを押すと,緑色のバーが出て,スペクトルの任意の場所のエネルギー・カウント数を確認できます.
右の画面ではスペクトルを2倍に拡大していますが,3段階に拡大でき,最大で8倍に広げて確認することができます.

ベクレル測定

ベクレル測定モードです.
現在出荷されているものは,このモードが無く,PC用ソフトウェア側から行うようです.
(PC用ソフトウェアでの解析の方が,より高精度に行えるようです)

鉛容器にセットして使うことで,対象の試料のベクレル数を調べることができます.
最初に設定画面がでるので,測定単位(Bq/kg・Bq/l),試料の重さ,測定時間などを入れてスタートさせます.

測定を開始すると,I-131,Cs-134,Cs-137,K-40 のそれぞれのベクレル数が誤差と共に表示されます.
標準では誤差の3倍を超えた量が検出されなければ,ND.と表示しますが,設定で変更することもできます.

ページを切り替えると,スペクトルを確認できます.
I-131,Cs-134,Cs-137,K-40 がそれぞれ別の色で色分けされておりわかりやすいです.

リモートベクレル測定

PCと接続して使うモードです.

PCソフトウェアの方では,試料の名称や依頼者,備考や注釈を付けてデータを管理したり, 測定結果の印刷などができるようです.
測定機能自体は本体で行える物と違いは無いようです.

各モードの設定メニュー

設定メニューです.

左は線量率モードでの設定メニュー,右はスペクトルモードでの設定メニューです.

線量率モードでは以下が設定できます.


スペクトルモードでは以下が設定できます.

ベクレルモードでは,測定開始前に設定メニューが出ます.

この画面で以下が設定できます.

共通の設定メニュー

どのモードでもメニューボタンをもう1回押すと,共通のコンフィグメニューになります.

コンフィグメニューでは以下が設定できます.

スペクトル解析結果

手持ちの密封線源のスペクトルを測定してみました.

下の写真のように,TA100Uでも計測し,スペクトルを並べています.
また,保存したスペクトルファイルもDLできるようにしました.

測定前にバックグラウンドのスペクトルを保存した物はこちらです.
バックグラウンドスペクトルファイル

以下は6種類の密封線源のスペクトルです.
比較のためTA100Uのスペクトルも掲載していますが,TS100のスペクトルがかなり綺麗なのがよくわかります.

Cs137
661.6keV

スペクトルファイル
ブラウザでスペクトル確認
TA100Uとは,コンプトンと光電ピークの比率が違います.
光電ピークのカウント数が多く,はっきりとしたスペクトルが確認できます.
Co60
1173.2keV
1332.5keV

スペクトルファイル
ブラウザでスペクトル確認
TA100Uは高エネルギー部分はあまりカウントできないようですが,TS100はしっかりと2つのピークが確認できます.
Ba133
122.1keV

スペクトルファイル
ブラウザでスペクトル確認
低エネルギーではTA100Uも似たような傾向になるようです.
Ba-133は未対応のためか,Xe-133 と誤解析されました.
Mn54
834.8keV

スペクトルファイル
ブラウザでスペクトル確認
Cs-137と同様に,TS100の方が高い光電ピークが確認できます.
Na22
1274.5keV

スペクトルファイル
ブラウザでスペクトル確認
Cs-137と同様に,TS100の方が高い光電ピークが確認できます.
Na-22は未対応のため,核種同定はできませんでした.
Cd109
88.0keV

スペクトルファイル
ブラウザでスペクトル確認
Cd-109は未対応のため,核種同定はできませんでした.

LaBr3検出機の特性

TS100B-15のベクレルモードで実際に食品を測定すると,800keVあたりにちょっとした山ができます.
これはLaBr3検出機の特性のようです.

以下の2つのドキュメントにも,LaBr3のバックグラウンドのスペクトルが掲載されていますが, 同じように800keVあたりに山がでています.

線量率の連続保存

microSDに1秒毎に線量率を連続保存することができます.

フォーマットは次のようになっています.

START TIME,2011/11/26,19:17:51
USER TIME CONST,90,sec


TIME(sec),1s,3s,10s,30s,USER
1,0.0000e+00,0.0000e+00,0.0000e+00,0.0000e+00,0.0000e+00
2,1.3774e-01,4.5914e-02,1.3774e-02,4.5915e-03,1.5305e-03
3,5.7683e-02,4.9837e-02,1.8165e-02,6.3612e-03,2.1544e-03
4,3.3486e-02,4.4386e-02,1.9697e-02,7.2654e-03,2.5025e-03


10分間の測定結果のデータをグラフにしてみると,次のようになりました.

使用感など

操作性

ボタンが多数あり,かなり操作はしやすくなっています.

同じメーカーのTA-100ではボタン数が少なく,長押し操作が多くありましたが, この機種ではそのようなことはありません.

画面表示

画面表示は情報量が多く,一目ですべて見渡せるのは便利なところです.
線量率モードやスペクトル表示画面で,ほとんどの情報が1画面に集約されています.

グラフの拡大操作などをしたときは,まず軸の数値が変わって,次の画面更新タイミングでグラフが変更されるので, この点は最初ちょっと戸惑うかもしれません.

また,画面に多くの情報を入れたためだと思いますが,フォントがかなり小さくなっています.
年配の方が使う場合は,文字が読みづらいと感じられる場合がありそうです.

γ線測定値の比較

一晩かけて複数の測定器で積算線量を測定したところ,次のようになりました.

測定日TS100TA100URD1008DoseRAE2
2011/11/260.432μSv/h0.567μSv/h0.815μSv/h0.800μSv/h
2011/11/270.485μSv/h0.599μSv/h0.812μSv/h0.768μSv/h
2011/11/280.436μSv/h0.532μSv/h0.819μSv/h0.840μSv/h

他の測定器と比べると若干低めにでている感じがしますが, Polimaster PM1703MO-1B や RadEye PRD-ER など,比較的高価な機種を使ったときも同様に低めに出ていました.

安価な機種ではバックグラウンドの低エネルギーの線量が高めにでるのかもしれません.

また,表示される線量率の変動を他の機種と比較しました.
別ページにまとめてありますので,下記リンク先を参照して下さい.

参考:線量率の変動比較・第6回 (2011/11/27)

まとめ

食品の測定については試せませんでしたが,TS-100 としても高性能であることが実感できました.

高感度ですし,スペクトルも綺麗にみることができます.

ベクレルメータについては,ほとんどの機種がベクレル測定専用になっていますが, TS100B-15 は食品の測定だけではなく,取り外してスペクトルサーベイメータとしても利用できますので, 個人で購入する場合はコストパフォーマンスが良いと思います.
(TS100B・TS150Bについては取り外し不可能です)

食品の測定に加えて,汚染箇所の探索や,その汚染物質の調査などもできるのは大きいと思います.

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