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放射線測定器(ガイガーカウンター)のカウント数の有意差計算ツールで差を検証する

放射線測定器(ガイガーカウンター)で測定した2つのカウント数を比べるとき, 本当にその差はあると考えて良いのか?ということを確認するためのツールを作成しました.

放射線はランダムに出るため,日常生活での数値の比較のように,単に数値の差を計算するだけでは, 本当に差があると言える状態なのか判断することができません.
同じ場所で複数回測定したり,同じ物を複数回測定したときに, 測定するたびに数値が違ってくることからも,放射線の測定が通常とは違うということを確認できると思います.

2つの測定値に差があると言えるかどうかは,この測定値の「ばらつき具合」を考慮した上で, 判断する必要があります.

このツールでは,2つの測定時間と,カウント数を入力することで,その差が有意かどうか確認できます.
元々の測定値にブレがありますので,本当に差があるか100%の結論は出ません.

そこで,ツールでは間違う確率を3つのパターンで判定するようにしています.
危険度5%,1%,0.27%の3つで計算します.

危険度5%というのは,5%の確率で,本当は差がないのに差があると間違う危険性がある判定基準ということになります.
危険度が小さいほど,間違えて,本当は差がないものを差があると判断するリスクが低くなります.

一方,危険度が小さくなると,差がありそうだけどはっきりしないものは「有意差なし」と判定されますので, なかなか差があるという結論が出なくなります.
(国の検査などでは,危険度0.27%相当で判断し,有意差無しならND表記となるようです)

ツール自体は以下のURLにありますので,別ウィンドウで開きながら説明をお読みください.



カウント数が測定できない測定気温場合は,μSv/hで複数回測定して,その結果から差を判定することもできます.
放射線測定器(ガイガーカウンター)の測定値の平均差の計算ツールで差を検証する
を参照してください.

基本的な使い方

まず,ガイガーカウンターのタイマーモードを使って,一定時間に何回放射線を検出したかを調べます.

あるものが汚染されているか調べたいときは,そのものを近くにおかずにまずバックグラウンドの空間線量を測り, 次に汚染されたものにガイガーカウンターを近づけてバックグラウンド+対象物の線量を測ります.

測定を行ったら,ツールの測定時間・カウント数の欄に,それぞれそれぞれ半角数字で入力します.
B-Aを計算しますので,Aの方にバックグラウンドのみの測定結果を記入すると良いです.

入力後に,「カウント差を計算」ボタンを押すとグラフと結果が更新されます.

また,「この結果のURL」にアクセスすると,入力値を再現した画面が表示されます.

測定の追加

数値には差がありそうだけど,有意差が確認できない場合は,測定を追加することで誤差を減らし,有意差を確認しやすくすることができます.

例えば10分ずつ測った場合は,更に20分ずつ測定し,合計時間・合計カウント数で再度判定を行ってみてください.
時間をかけて,カウント数を増やすほど,測定の誤差は減り,有意差の判定が行いやすくなります.

結果の見方

危険度5%で差は有意?,に有意差ありと表示されれば,2つの測定値には(5%の確率で間違う危険性で)差があることになります.
同様に危険度1%で差は有意?,に有意差ありと表示されれば,2つの測定値には(1%の確率で間違う危険性で)差があることになります.

この間違うというのは,本来差が無いものを差があると間違えることを示しているので, 本来差があるものを(測定値から本来の数値がはっきりりわからずに)差が無いと間違えることは含まれません.

ですので「有意差なし」の場合は,

の2つの場合があります.

差がありそうなのに有意差なしと出る場合は,更に時間をかけて測定し,カウント数を増やすことで本当の値がある範囲を狭め, より差を確認しやすくすることができます.

3つの危険度を比べると,危険度5%が,差がないのに有意差ありと判定してしまう可能性が高く, 逆に差があるのに有意差なしと判定してしまう可能性が低いことになります.
危険度0.27%は,差がないのに有意差ありと判定してしまう可能性が低くなりますが, 逆に差があるのに有意差なしと判定してしまう可能性は高くなってしまいます.

食品を調査するときは,例えば危険度5%で判断して,有意差ありのものを破棄する場合, 5%の確率で安全なものを破棄してしまう可能性があることになります.
危険度0.27%では,その可能性は大幅に減らせますが,その分しっかりした測定データが無いと, 汚染されているものを有意差なしと判断してしまう可能性があることになります.

国の調査では危険度0.27%なので,かなりはっきり「差がある」状態でないと,有意差有りと見なさないことになります.
国が誤って差があると見なすと大問題ですが,個人で測定をする場合は,差がある可能性が高い,という情報でも役立ちます.

また,食品などの調査時は,「汚染されているものを食べてしまう」「汚染されていないものを捨ててしまう」のどちらが良いか, ということを考えると,汚染されているものを食べてしまうことをより避けたいと思うかもしれません.
そのような場合は,危険度5%の判定などを採用すると良いと思います.

危険度ごとの判定を見て,どの程度確な差があるかを確認してください.

また,測定結果の「p値」というのは,危険度で言えばどのくらいまで有意なのかを表しています.
例えば,p値が3%なら,危険度5%では有意差ありだけれども,危険度1%では有意差なしということになります.

グラフの見方

データAは青系の色,データBは赤系の色で表示されます.

山の形をしたグラフが2つ表示されたと思いますが,このグラフは「本当の値がどのへんにあるか」を表しています.

放射線はランダムなので,例えば1分間で60回検出したら,1秒あたり1回になりますが,本当の値が1cps(cpsは1秒あたりのカウント数)とは限りません.
グラフの山は,本当の値がどのあたりにあるかを表していて,線が上の方にあるほど,そのcpsの値である可能性が高いと言うことになります.

cpsの数値が同じでも,たくさんの放射線をカウントしたときはより1cpsの近くにあるだろう,というように考えることになります.

次は,データAは10分間で600カウントで1cps(=1秒あたり1カウント), データBは30分間で1800カウントで1cps,のデータの例です.

データAの青い方は,ゆるやかな山となっていて,0.90cps くらいの可能性もありそうだと読み取れます.
一方,より長い時間かけて測定したデータBの赤い方は,同じ1cpsですが,山が鋭くなっています.
こちらでは,0.90cpsである可能性はほとんどないということが読み取れます.

放射線はランダムなので,たくさん検出した方が,本当の値がある範囲を絞り込めることになります.

データAとデータBの差があるかどうか?を見分けるには,このグラフの山が重なっているかどうかで判断します.
グラフが大きく重なっている場合は,本当の値が変わらないという可能性がそれだけあることになり,差があると言えなくなります.
一方,2つのグラフが重なっていなければ,それぞれ本当の値は別々の所にあると言えますので,差があると判断できます.

差があると言えないほどグラフが重なっている例がこちらです.
1.0cpsと1.1cpsで有意差無しの例

2つのグラフが結構重なっています.
このくらいの重なりがあると,一般的に「差があるとは言えない」ということになります.
(「差があるとは言えない」と「差が無い」は違います.)

このような場合は,更に測定を重ねて,よりたくさんのカウント数を得ることで判別が可能です.

先ほどは10分間で,600カウント,660カウントでしたが,更に20分ずつ測定し,合計30分,それぞれ合計1800カウント,1980カウントになると次のようになります.
1.0cpsと1.1cpsである程度有意差有りの例

それぞれ,1.0cps,1.1cpsで,測定値自体は変わりませんが,時間をかけて測ったために誤差が小さくなっています.
山が鋭くなり,重なる範囲が狭くなったことで,危険度5%・危険度1%では有意に差があると判断できました.
これでも,危険度0.27%では有意な差ではありません.

一般的な放射線の測定では,危険度0.27%で判断しますので,同じ厳密さを求めるなら,更に時間をかけて測定する必要があることになります.

参考リンク

放射能基礎統計学 検出限界の考え方
検出限界についての説明です.複数の考え方がありますが,Kaiserの考え方の3σ法が当サイトの0.27%危険度に相当します.