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放射線(γ線)の減衰

放射線源からの距離と放射線の強さの関係

放射線の強さは,距離の二乗に反比例するとよく聞きます.

1mの距離で1μSv/hなら,2mに離れれば1/4になって0.25μSv/hになる,と理解している方が多いのではないでしょうか.
しかし,実は放射線源の形によって,これは正しくないことがあります.

距離の二乗に反比例すると言われると,例えばモニタリングポストの高さが20mと言われたら, 不当に線量を小さく見せるために高い場所に設置している,と考えがちです. ですが,実はこれは誤りです.

距離と強さの関係について,説明します.

放射線源が点の場合



まず,放射線源が点だった場合です.
点というのは,例えば放射性物質の塊が1つ落ちている,というような状況をイメージしてください.
その塊から離れれば,距離の二乗に反比例して放射線の強さは弱くなります.
ですから,1mで1μSv/hであれば,2m離れれば,1/2×1/2で1/4になりますので,0.25μSv/hになります.

逆に,1mから0.5mに近づけば,距離の二乗に反比例して強くなるので,2×2で4倍の4μSv/hになります.
ただし,これはある程度距離が離れている場合にしか成り立たないことに注意する必要があります.
内部被曝の説明の際などに,「1ミクロンは1mの100万分の1だからその影響は1兆倍になる」という説明などを見かけますが,これは誤りです.

距離の二乗に反比例して放射線の強さが変わるのは,放射線源からはいろいろな方向に放射線が飛び出すので, 対象物に当たる放射線の量が距離に応じて変わるためです.
距離が2倍遠くなると,放射線源から見ると対象物は縦と横,それぞれ半分になりますから,面積は1/4になります.
いろんな方向に飛び出した放射線が,たまたまその対象物に放射線が当たる確率も1/4になるので,放射線の強さが1/4になるわけです.

逆に近づけていくと,放射線源から見て対象物はどんどん大きくなりますから,それに応じて線量も強くなります.
しかし,どんなに近づけても放射線源から飛び出す放射線の量が増えるわけではありません.
線源から1mの場所に,10cm×10cmの対象物があった場合,飛びだした放射線のだいたい0.08%が当たります.
0.5mにすれば,4倍になって0.32%があたりますが,更に近づけていって放射線源に密着させても,対象物がある側に出た放射線全部が最大ですから,50%までにしかなりません.
体内に取り込めばどの方向も体に当たるので100%になりますが,そうだとしても最大で100/0.08=1250倍にしかならないことになります.

放射線源が線の場合



次に,放射線源が線の場合です.
この線は,ずっと先まで無限に延びている線です.

見えなくなるまでずーっと伸びているまっすぐな線路や道路が,放射線を出しているような状況になります.

この場合は,放射線の線からの距離に反比例して放射線の強さが弱くなります.
ですから,1mで1μSv/hであれば,2m離れれば,1/2になりますので,0.5μSv/hになります.

放射線源が面の場合



最後に,放射線源が面の場合です.
この面も,無限に広い平面になります.
見渡す限りの平らな地面の上に,まんべんなく放射性物質が降り積もっているような状況になります.

この場合は,放射線源からの距離(=高さ)によらず,放射線の強さは同じになります.
これはイメージしづらいかもしれませんが,無限に広い平面ならそのようになります.

当サイトにある表面のベクレル(Bq/cm^2)シーベルト(Sv)換算ツールにも高さの指定がありませんが,これはそういった理由からです.

実際は,無限に広い平面ということはないですし,地面はでこぼこで,色々建物などの遮蔽物があります.
ですので,そういった違いにより地表面より高くなるほど放射線の強さは弱くなります.

しかし,放射線源が点の場合のように,距離の二乗に反比例するということはなく, 放射線源が線よりは緩やかに弱くなるということはイメージできると思います.
実際に高さを変えて計っている測定値によると,おおよそですが地表面と地上1mで1.3倍くらいの差になるようです.

東京都のモニタリングポストの実測値でも,高さ18mで0.0692μSv/hの時,地上1mで0.08μSv/hと,そこまで大きな差は出ていません.
参考:空間放射線量の測定について(Q4を参照ください)

減衰するときはエネルギーではなく数が減る

放射線には種類がありますが,γ線については距離に応じて減衰します.

空気中でも減衰しますし,鉛などで遮蔽すれば大きく減衰します.
放射線を例えば1/2に減衰すると,放射線の強さは1/2になりますので,線量率(Sv/h)の値は半分になります. しかし,そのときの放射線のエネルギーは元の大きさのままです.

放射線のエネルギー(MeV)が強さのように思われますが,エネルギーについては変化せず, 放射線が出たときのエネルギーで変わることはありません.
減衰する場合は,放射線の数が変わることになります.

次の図のようなイメージになります.
1MeVのエネルギーの放射線が障害物で半分に減衰するとき,放射線のエネルギーが減るわけでは無く, 障害物を通過できる放射線の数が半分になるという減り方をします.